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【第11回】えっ、その時、祝日が動いた?

4 min

 法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
おきてのみやげ」の周遊便を
お届けいたします。
 この先、第2シーズン(second season

のファシリテーター(facilitator)を務めます、
テラボ(terrabo)です。

 たとえ、専門外(amateur)でも、
法律の条文をスラスラ読めるようにするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。

 武経七書の『三略』(上略)にあります、
「柔よく剛を制す」のように、

 堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
「柔」の心構えで取り組むのが当を得ている
ときもあります。

 今晩は、「えっ、」で始まる
第2シーズンの事始めとして、
えっ、その時、祝日が動いた?
の題材で憩(いこ)いのひとときを
送りましょう。

 ふと、令和3年のカレンダーに目が向くと、
7月19日(7月の第3月曜日)の欄には、
「海の日」と書いてあります。

 ところが、インターネット上では、
「今年の「海の日」は、7月22日(木)で、オリンピック開会式の前日となる。「山の日」や「スポーツの日」も、別の日に動きます。」
という記事をよく目にします。

 祝日が動いたその時、法律上、どのようなからくりが隠されていたのでしょうか。

1 ウェブサイト(website)を追え

(1)手始めに祝日法から

 そもそも、
「祝日って、そんなに、たやすく動くの?」
と、怪訝(けげん)な気持ちになりますよね。


 それをぐっと押さえつつ、
国民の祝日に関する法律昭和23年法律第178号
を調べますが、特に、「令和3年の祝日は移動し放題」とか、書いてあるわけではありません。

(2)首相官邸のwebsite

 この手の話は、経験上、お堅い役所の情報が役に立つので、さっそく検索してみると、
首相官邸のwebsiteに、「2021年の祝日移動について」の記事が見つかりました。

 そこには、3つの祝日がどこに移動するのかが、図解入りで丁寧に説明されていましたが、お目当ての根拠条文は見つかりません。

(3)内閣府のwebsite

 そこで内閣府のwebsiteに移ると、「令和3年(2021年)の祝日についての記事がありました。

令和3年(2021年)の祝日について

 令和3年(2021年)に限り、
海の日」は7月22日に、
スポーツの日」は7月23日に、
山の日」は8月8日(※)になります。

 平成三十二年東京オリンピック競技大会・
東京パラリンピック競技大会特別措置法等
の一部を改正する法律

(令和2年法律第68号)が
本年12月28日に施行されることに伴い、
改正後の令和三年東京オリンピック競技大会・
東京パラリンピック競技大会特別措置法

(平成27年法律第33号)
第32条第2項の規定に基づき、
令和3年(2021年)における海の日
スポーツの日及び山の日については、
上記の通りとなります。

(※) 国民の祝日に関する法律
   (昭和23年法律第178号)
   第3条第2項の規定に基づき、
   8月9日は休日となります。

2 五輪特措法のいきさつ

 なるほど、そういう法律があったのか!
 それなら、いつものように、五輪特措法(筆者のお気に入りの略称)のハイライトシーンを追ってみましょう。

(1)五輪特措法の誕生


 平成27年5月27日、閣法により、
平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法平成27年法律第33号
が成立し、同年6月3日に公布されました。

 このときは、祝日について、
何も触れられていませんでした。

(2)平成32(令和2)年の祝日

 平成30年6月13日、
衆法文部科学委員長)により、
平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法及び平成三十一年ラグビーワールドカップ大会特別措置法の一部を改正する法律平成30年法律第55号
が成立し、同月20日に公布されました。

 同法第1条により、次のように、第5章が新設されました。

第5章 国民の祝日に関する法律の特例
第29条 平成32年の国民の祝日
 (国民の祝日に関する法律
 (昭和23年法律第178号)
 第1条に規定する国民の祝日をいう。)
 に関する同法の規定の適用については、
 同法第2条海の日の項中
 「七月の第三月曜日」
 とあるのは「七月二十三日」と、
 同条山の日の項中「八月十一日」
 とあるのは「八月十日」と、
 同条体育の日の項中
 「十月の第二月曜日」
 とあるのは「七月二十四日」とする。

 これは、当初オリンピックが開催されるはずの令和2年の祝日についての改正です。
 その後、オリンピックが1年延期されましたので、同じように、令和3年の祝日を動かす必要が出てきました。

(3)令和3年の祝日

 令和2年11月27日、閣法により、
平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法等の一部を改正する法律令和2年法律第68号
が成立し、同年12月4日に公布されました。

 同法第1条により、同法の題名が、
令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号)
に改められるとともに、次のように、
同法の国民の祝日に関する規定
(既に別の法律(注)で第32条に条ズレ)
の第1項を修正の上、第2項が新設されました。

   第五章 国民の祝日に関する法律の特例
第32条 令和2年の国民の祝日
 (国民の祝日に関する法律
 (昭和23年法律第178号。
 以下この条において「祝日法」という。)
 第1条に規定する国民の祝日をいう。
 次項において同じ。)に関する
 祝日法の規定の適用については、
 祝日法第2条海の日の項中
 「七月の第三月曜日」
 とあるのは「七月二十三日」と、
 同条山の日の項中「八月十一日」
 とあるのは「八月十日」と、
 同条スポーツの日の項中
 「十月の第二月曜日」
 とあるのは「七月二十四日」とする。
2 令和3年の国民の祝日に関する
 祝日法の規定の適用については、
 祝日法第2条海の日の項中
 「七月の第三月曜日」
 とあるのは「七月二十二日」と、
 同条山の日の項中「八月十一日」
 とあるのは「八月八日」と、
 同条スポーツの日の項中
 「十月の第二月曜日」
 とあるのは「七月二十三日」とする。

(注) 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の
   国の重要な施設等、外国公館等及び
   原子力事業所の周辺地域の上空における
   小型無人機等の飛行の禁止に関する法律
   等の一部を改正する法律

   (令和元年法律第10号第3条
   平成三十二年東京オリンピック競技大会・
   東京パラリンピック競技大会特別措置法
   の一部改正

   により、
   第29条は第32条に条ズレしています。

3 祝日の移動に関する証拠

 今回の謎解きは、内閣府のwebsiteの記事(暗号)を手がかりに、令和3年における祝日の移動のからくり(根拠条文)が、
五輪特措法(平成27年法律第33号)第32条第2項
に秘められており、その素顔(法律のいきさつ)をゆるりと愉しむことができました。
 めでたし、めざまし。

 今晩は、これでおしまいです。
 それではまた、近いうちに
お会いしましょう。

  

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