法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
「おきてのみやげ」の周遊便を
お届けいたします。
この先、第2シーズン(second season)
のファシリテーター(facilitator)を務めます、
テラボ(terrabo)です。
たとえ、専門外(amateur)でも、
法律の条文をスラスラ読めるようにするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。
武経七書の『三略』(上略)にあります、
「柔よく剛を制す」のように、
堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
「柔」の心構えで取り組むのが当を得ている
ときもあります。
今晩は、「えっ、」で始まる
第2シーズンの事始めとして、
「えっ、その時、祝日が動いた?」
の題材で憩(いこ)いのひとときを
送りましょう。

ふと、令和3年のカレンダーに目が向くと、
7月19日(7月の第3月曜日)の欄には、
「海の日」と書いてあります。
ところが、インターネット上では、
「今年の「海の日」は、7月22日(木)で、オリンピック開会式の前日となる。「山の日」や「スポーツの日」も、別の日に動きます。」
という記事をよく目にします。
祝日が動いたその時、法律上、どのようなからくりが隠されていたのでしょうか。
Table of Contents
1 ウェブサイト(website)を追え
(1)手始めに祝日法から
そもそも、
「祝日って、そんなに、たやすく動くの?」
と、怪訝(けげん)な気持ちになりますよね。
それをぐっと押さえつつ、
国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)
を調べますが、特に、「令和3年の祝日は移動し放題」とか、書いてあるわけではありません。
(2)首相官邸のwebsite
この手の話は、経験上、お堅い役所の情報が役に立つので、さっそく検索してみると、
首相官邸のwebsiteに、「2021年の祝日移動について」の記事が見つかりました。
そこには、3つの祝日がどこに移動するのかが、図解入りで丁寧に説明されていましたが、お目当ての根拠条文は見つかりません。
(3)内閣府のwebsite
そこで内閣府のwebsiteに移ると、「令和3年(2021年)の祝日について」の記事がありました。
令和3年(2021年)の祝日について
令和3年(2021年)に限り、
「海の日」は7月22日に、
「スポーツの日」は7月23日に、
「山の日」は8月8日(※)になります。平成三十二年東京オリンピック競技大会・
東京パラリンピック競技大会特別措置法等
の一部を改正する法律
(令和2年法律第68号)が
本年12月28日に施行されることに伴い、
改正後の令和三年東京オリンピック競技大会・
東京パラリンピック競技大会特別措置法
(平成27年法律第33号)
第32条第2項の規定に基づき、
令和3年(2021年)における海の日、
スポーツの日及び山の日については、
上記の通りとなります。(※) 国民の祝日に関する法律
(昭和23年法律第178号)
第3条第2項の規定に基づき、
8月9日は休日となります。
2 五輪特措法のいきさつ
なるほど、そういう法律があったのか!
それなら、いつものように、五輪特措法(筆者のお気に入りの略称)のハイライトシーンを追ってみましょう。
(1)五輪特措法の誕生
平成27年5月27日、閣法により、
平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号)
が成立し、同年6月3日に公布されました。
このときは、祝日について、
何も触れられていませんでした。
(2)平成32(令和2)年の祝日
平成30年6月13日、
衆法(文部科学委員長)により、
「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法及び平成三十一年ラグビーワールドカップ大会特別措置法の一部を改正する法律」(平成30年法律第55号)
が成立し、同月20日に公布されました。
同法第1条により、次のように、第5章が新設されました。
第5章 国民の祝日に関する法律の特例
第29条 平成32年の国民の祝日
(国民の祝日に関する法律
(昭和23年法律第178号)
第1条に規定する国民の祝日をいう。)
に関する同法の規定の適用については、
同法第2条海の日の項中
「七月の第三月曜日」
とあるのは「七月二十三日」と、
同条山の日の項中「八月十一日」
とあるのは「八月十日」と、
同条体育の日の項中
「十月の第二月曜日」
とあるのは「七月二十四日」とする。
これは、当初オリンピックが開催されるはずの令和2年の祝日についての改正です。
その後、オリンピックが1年延期されましたので、同じように、令和3年の祝日を動かす必要が出てきました。
(3)令和3年の祝日
令和2年11月27日、閣法により、
平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第68号)
が成立し、同年12月4日に公布されました。
同法第1条により、同法の題名が、
令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号)
に改められるとともに、次のように、
同法の国民の祝日に関する規定
(既に別の法律(注)で第32条に条ズレ)
の第1項を修正の上、第2項が新設されました。
第五章 国民の祝日に関する法律の特例
第32条 令和2年の国民の祝日
(国民の祝日に関する法律
(昭和23年法律第178号。
以下この条において「祝日法」という。)
第1条に規定する国民の祝日をいう。
次項において同じ。)に関する
祝日法の規定の適用については、
祝日法第2条海の日の項中
「七月の第三月曜日」
とあるのは「七月二十三日」と、
同条山の日の項中「八月十一日」
とあるのは「八月十日」と、
同条スポーツの日の項中
「十月の第二月曜日」
とあるのは「七月二十四日」とする。
2 令和3年の国民の祝日に関する
祝日法の規定の適用については、
祝日法第2条海の日の項中
「七月の第三月曜日」
とあるのは「七月二十二日」と、
同条山の日の項中「八月十一日」
とあるのは「八月八日」と、
同条スポーツの日の項中
「十月の第二月曜日」
とあるのは「七月二十三日」とする。
(注) 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の
国の重要な施設等、外国公館等及び
原子力事業所の周辺地域の上空における
小型無人機等の飛行の禁止に関する法律
等の一部を改正する法律
(令和元年法律第10号)第3条の
平成三十二年東京オリンピック競技大会・
東京パラリンピック競技大会特別措置法
の一部改正
により、
第29条は第32条に条ズレしています。
3 祝日の移動に関する証拠
今回の謎解きは、内閣府のwebsiteの記事(暗号)を手がかりに、令和3年における祝日の移動のからくり(根拠条文)が、
五輪特措法(平成27年法律第33号)第32条第2項
に秘められており、その素顔(法律のいきさつ)をゆるりと愉しむことができました。
めでたし、めざまし。
今晩は、これでおしまいです。
それではまた、近いうちに
お会いしましょう。
