法律の素顔をゆるりと愉しむブログです

【第9回】んっ、条文が引っ越した?

4 min

 法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
おきてのみやげ」の深夜不定期便を

お届けいたします。
 ナビゲーターを務めます、

テラボ(terrabo)です。

 たとえ、門外漢(amateur)でも、
たやすく読めるはずの法律の条文を、
まさしく読めるようにしようとするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。

 堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
『北風と太陽』の二回戦目のように、
ゆるりとした心構えで取り組むのが得策
なときもあります。

 そこで今宵は、
んっ、条文が引っ越した?
のトピックで、ゆったりと
くつろぎましょう。

 校舎から新緑の並木道を横切り、書斎に戻って、
夕方の煩(わずら)わしさを、
シャワーでさらりと流してから…
 それでは、幕が上がります。

1 条文の引っ越しの正体

 タイトルの「条文が引っ越した?」とは、「条文が別の法律に引っ越した」の意味ですが、一見、ヤドカリの引っ越しみたいですね。

(1) 都市伝説風には

 これを都市伝説風に言えば、
「労働契約法の旧第20条が消えて、瞬時に、パート・有期労働法(略称)第8条に移動した。」
というテレポーテーション(瞬間移動)の話になります。ちょっと先が見えた感じがしましたね。

 これを、もう少し法律っぽく表現すると、
働き方改革関連法(略称)により、
労働契約法」の旧第20条が削除されるとともに、
その改正後の
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理
 の改善等に関する法律
第8条に、
当該旧第20条の内容が盛り込まれました。」
となるでしょう。

 確かに、法令の素顔をゆるりと愉しむ、
「おきてのみやげ」としての面目は立ちますが、
それでも、改正のからくりというか、
条文の操作の仕方(立法技術)が、
漠としていて、どこか歯がゆく感じます。

 そこで、さらに装飾(デコレーション)をあしらえましょう。

(2) フルスペックに変身 

 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
 (平成30年法律第71号第8条により、
労働契約法の一部改正」が行われ、
労働契約法」(平成19年法律第128号)の旧第20条
 〔期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
の規定が削除されました。

     ⇕
 一方、当該働き方改革関連法(略称)第7条により、
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部改正

が行われ、
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)

の題名が、
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

に改められたほか、
前述の旧第20条の規定の内容が見直されて、当該パート・有期労働法(略称)第8条不合理な待遇の禁止〕の中に盛り込まれました。」

 いかがでしょうか。
 さかしら(得意げ)に書き改める程でもありませんでしたが、「おきてのみやげ」らしい、法律への愛着が前面に押し出された感じが気に入っています。

2 「引っ越し前」と「引っ越し後」 

 今回の本ブログの主旨は、「条文が別の法律に引っ越した?」のからくりを探し当てることですし、それは、上記1の条文操作の手解(てほど)きによって、見事に解決しました。(ほんまに自画自賛して恥ずるところがないのか!)

(1) おきて破りの実体規定の世界へ

 しかし、当ブログを読まれている方の中には、
労働契約法」の旧第20条〔期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止〕の規定が削除されて、
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条不合理な待遇の禁止

の中に盛り込まれました。」
って言うけど、
「何がどのように盛り込まれたの?その実体規定を見てみたいな~」
という好奇心が旺盛(へそ曲がり)な御仁もいらっしゃると思いますので、念のため、嫌々取り上げます。

(2) 下手の横好きな方だけに

 とりあえず、双方の条文を順に掲げてみましょう。

〇「労働契約法」 (平成19年法律第128号)の旧第20条
 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約
 の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより
 同一の使用者と期間の定めのない労働契約を
 締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と
 相違する場合においては、当該労働条件の相違は、
 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
 (以下この条において「職務の内容」という。)、
 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
 その他の事情を考慮して、
 不合理と認められるものであってはならない


〇「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
 (平成5年法律第76号)
 (不合理な待遇の禁止
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者
 の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、
 当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、
 当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の
 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
 (以下「職務の内容」という。)、
 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
 その他の事情のうち、
 当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的
 に照らして適切と認められるものを考慮して、
 不合理と認められる相違を設けてはならない

(3) 双方の異同

 次に、双方の条文を見比べて、それぞれの異同を
明かにしましょう。

ア 双方の共通項

 一瞥して、
労働契約法の旧第20条とパート・有期労働法第8条
が言わんとする内容は、軌を一にするものです。

 具体的には、
「通常の労働者の処遇(労働条件)と
(パート・)有期雇用労働者のそれとの間において、
不合理と認められる相違があってはならない。」
という共通認識があります。

イ 相違点

 一方、相違点を挙げますと、
・ まず、条文の建て付け(主語の置き方)について、
 労働契約法の旧第20条にあっては、契約の内容として、
 パート・有期労働法第8条にあっては、事業主の責任として
 規定しています。
・ 不合理と認められるか否かを判断するに当たって
 考慮することとなる要素について、
 労働契約法の旧第20条にあっては、「その他の事情」として、
 その内容をオープンにしていますが、
 パート・有期労働法第8条にあっては、「その他の事情」のうち、
 「待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして
 適切と認められるもの」と、
 その内容を限定しています。

(4) 最高裁判決が目白押し 

 労働契約法の旧第20条をめぐっては、
令和2年10月13日の2件、同月15日に3件の
最高裁判決があります。

 それぞれの判決の内容を見比べる一覧表とかが
ありましたら、さぞ、愉しい時が過ごせると思います。
(いや、しませんよ、言ってみただけです。)

3 あっけない幕引き

 労働契約法の旧第20条をめぐる諸判例を話し始めますと、
地裁⇒高裁⇒最高裁の移り変わりや、
東京、大阪、福岡(佐賀)の三都物語など、
話の道筋が四方八方に広がるおそれがあります。

 というわけで、
今宵は、夜更かしをしませんよう、
筆を置くことに(shut down)します。
 それではまた、
近いうちにお会いしましょう。

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