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【第7回】んっ、見慣れない漢数字?

5 min

 法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
おきてのみやげ」の深夜不定期便を

お届けいたします。
 ナビゲーターを務めます、

テラボ(terrabo)です。

 たとえ、門外漢(amateur)でも、
たやすく読めるはずの法律の条文を、
まさしく読めるようにしようとするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。

 堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
『北風と太陽』の二回戦目のように、
ゆるりとした心構えで取り組むのが得策
なときもあります。

 そこで今宵は、
見慣れない漢数字?
のトピックで、呑気(のんき)に
リフレッシュしましょう。

 ガヤガヤした構内を通り抜け、
日暮れ時の雑念をシャワーで流してから…

 それでは、幕が上がります。

1 見慣れない漢数字 

 法学を学び始めた頃、
スタートアップから怯(ひる)んでしまうのは、
漢数字のオバケに出会ったときでしょう。
 法学初心者の落とし穴、それが漢数字なのです。


 社会人ともなれば、ちょくちょく出くわす漢数字ですが、
学生時代に使用する数字と言えば、
「1、2、3…10…」というアラビア数字です。

 そして、縦書きを通例とする法令の世界では、
法令を読む人が誤読しないよう、原則として、
正確な発音どおりに漢数字で書くことになっています。

(1) 法律番号

 法令集を注意深く眺めますと、
題名の右横にくついている法律番号だって、
漢数字になっています。

 ですから、労働基準法ならば、
「労働基準法 (
昭和二十二年法律第四十九号)」
が正式な書き方となります。
 そこはかとなく、労働基準法が偉そうに見えますね。
「えっ、そう言うけど、これまでの本ブログでは、
労働基準法(昭和22年法律第49号)」
と書いていたように…」

「 実は、そうなんです。
 法律番号や条について、密かに、
 読者の方々がスラスラとよどみなく読んで

 いただけるよう、漢数字をアラビア数字に
 書き換えていたのです。」

 というのも、横書きの場合であれば、あらかた、
アラビア数字の表記が見慣れているからです。
 初等中等教育の教科でも、国語等を除き、
教科書やノートも横書きが主流ですから。

 ただ、法律の素顔(条項そのもの)を
じっくりと愉しむ本ブログとしては、
素顔(漢数字)に化粧(アラビア数字)を

しているのを、黙って見過ごすわけにはいきません。
 そこで今回、取り上げることになった次第です。

(2) 条文

 「法律番号」のみならず、「条文」においても、
原則として、正確な発音どおりに漢数字で書きます。
 例えば、
「令和三年三月三十一日」、「第七十三条」のように、

」、「」、「」、「」、「」、「
を入れます。

 また、序数には、「第」を付けます。例えば、
「第三章」、「第十五条」のように書きます。

(3) とにかく実物を見よう

 すぐさま実戦投入するのが、本ブログの流儀。
前述した労働基準法の中から、

具体例を取り上げてみましょう。

〇 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
 (法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく
 命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、
 第二十四条第一項ただし書、
 第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、
 第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、
 第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、
 第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、
 第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、
 第六項及び第九項ただし書に規定する協定並びに
 第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一
 条の二第三項において準用する場合を含む。)
 並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、
 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、
 又は備え付けること、書面を交付すること
 その他の厚生労働省令で定める方法によつて、
 労働者に周知させなければならない。
(第2項 略)

「うっ、こんな条文読めるか!」
と感じて、途中から読み飛ばした方、
心身がすこぶる健康な証(あかし)です。
 ついでに、このブログまでスキップしようとした方、
「短気は損気」ですよ。
それにしても、この漢数字のオバケを読み通せるのは、
法律オタクかAIボイスぐらいでしょう。
 「声に出して読みたい日本語」の裏返しですね。

(4) 本ブログ風に書き換えると

 このままでは、ブログを秒速で移られそうなので、
いつもの体裁に書き直してみましょう。

〇 労働基準法 (昭和22年法律第49号)
 (法令等の周知義務)
第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく
 命令の要旨、就業規則、第18条第2項、
 第24条第1項ただし書、
 第32条の2第1項、第32条の3第1項、
 第32条の4第1項、第32条の5第1項、
 第34条第2項ただし書、第36条第1項、
 第37条第3項、第38条の2第2項、
 第38条の3第1項並びに第39条第4項、
 第6項及び第9項ただし書に規定する協定
 並びに第38条の4第1項及び同条第5項
 (第41条の2第3項において準用する場合
 を含む。)並びに第41条の2第1項に規定
 する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、
 又は備え付けること、書面を交付すること
 その他の厚生労働省令で定める方法によつて、
 労働者に周知させなければならない。
 (第2項 略)

 いかがでしょうか。ドヤ顔で言うほどでもありませんが、
平常心で見られる程度にはなったと思います。


 ただ、このようにアラビア数字に書き換えても、
どことなく分かりにくい感があるのは、

・ そもそも枝番自体がスーッと頭に入らない、
・ 条文に見出しがないので、周知の内容がイメージできない

からです。
 これらの話題については、別の機会に譲りましょう。

 さて、法令の漢数字について、ひと通り垣間見てきましたが、
さらに奥深い漢数字があります。
 それは大字です。
 これを「おおあざ」と読むと、住所になってしまいますので、
「だいじ」と読みます。

2 大人は知っている大字

(1) なぜ大字が大事なのか 

 社会人になって、大切な契約をして、契約書を交わす際、
金額欄に、「1万円」の金額を記入したいときには、通常、
「一万円」とは書かずに、「壱万円」と記載します。
こうした取扱いの数字が大字です。
 漢数字の「旧字体」とも言われます。

(2) 大字はどこに使われている?

 先の例で、仮に、「一」と書いてしまうと、後々、
「二」や「三」への書き換え(変造)のリスクは、
たやすく察しがつきますし、さらには、
「七」や「十」にも、改ざんがしやすいでしょう。

 ですから、大切な契約書や領収書などでは、
「一」、「二」、「三」、「一〇」の代わりに、
「壱」、「弐」、「参」、「拾」を用いるわけです。

(3) 意外な所に大字が 

 社会人になると、漢数字のみならず、いつの間にか、
大字も常識となっています。
 それもそもはず、現行の一万円札には、堂々と、
壱万円」と印刷されていますから。

 というより、「福沢諭吉」柄
(昭和59(1984)年11月1日発行開始)
はもとより、その前の「聖徳太子」柄
((昭和33年(1958)年12月1日発行開始)
のときも、これから発行される見込みの
「渋沢栄一」柄だって、でっかでかと
「壱万円」と印刷されています。
 大字は、年季が違うんですね。

(4) 堅くて古めかしい法律では

 各種法令には漢数字が使われますが、
大字は、どのような場合に使われるのでしょうか。
 法令検索(e-Gov)してみた結果は、次のとおりです。

〇 公証人法(明治四十一年法律第五十三号)
第三十七条 公証人証書ヲ作成スルニハ
 普通平易ノ語ヲ用井字画ヲ明瞭ナラシムヘシ
(第2項 略)
③ 数量、年月日及番号ヲ記載スルニハ
 壱弐参拾ノ字ヲ用ウヘシ

〇 会計法規ニ基ク出納計算ノ数字及記載事項ノ訂正
 ニ関スル件
(大正十一年大蔵省令第四十三号)
 会計法規ニ基ク出納計算ノ数字及記載事項ノ訂正
 ニ関スル件左ノ通之ヲ定ム
第一条 会計法規ニ基ク出納計算ニ関スル諸書類帳簿
 ニ記載スル金額其ノ他ノ数量ニシテ
 「一」、「二」、「三」、「十」、「廿」、「卅」
 ノ数字ハ
 「」、「」、「」、「」、「弐拾」、「参拾
 ノ字体ヲ用ユヘシ
 但横書ヲ為ストキハ「アラビア」数字ヲ用ユルコトヲ得

〇 戸籍法施行規則
 (昭和二十二年司法省令第九十四号)
第三十一条 戸籍の記載をするには、
 略字又は符号を用いず、
 字画を明かにしなければならない。
② 年月日を記載するには、
 の文字を
 用いなければならない。
(第3項及び第4項 略)

 

〇 供託規則 (昭和三十四年法務省令第二号)
 (記載の文字)
第六条 供託書、供託物払渡請求書その他
 供託に関する書面に記載する文字は、
 字画を明確にしなければならない。
2 金銭その他の物の数量を記載するには、
 アラビア数字を用いなければならない。
 ただし、縦書をするときは、
 「」の文字を
 用いなければならない。
(第3項から第6項まで 略)

〇 小切手振出等事務取扱規程
 (昭和二十六年大蔵省令第二十号)
   附 則 
 〔昭和40年大蔵省令第20号の附則〕
(第1項 略)
2 小切手の券面金額は、当分の間、
 所定の金額記載欄に、漢数字により
 表示することができる。
 この場合においては、
 「一」、「二」、「三」及び「十」の字体は、
 それぞれ「」、「」、「」及び「
 の漢字を用い、かつ、所定の金額記載欄の
 上方余白に当該金額記載欄に記載の金額と
 同額をアラビア数字で副記しなければならない。

(注) 以上の「(参照条文)」では、
   これまでの本ブログでの表記とは異なり、
   法令番号や条の表記についても、
   意図的に漢数字のままにしています。

 それにしても、公証人法のように、条項自体が、
「漢字+カタカナ」の漢文調の文体でしたら、
数字も漢数字を用いるほうが、むしろ自然に見えます。

 そういえば、明治生まれの祖父に、たまたま、
小学校に提出する書類の代筆を頼んだとき、
「…風邪ニテ候フ。而シテ…休校ヲ御願ヒ申シ上ゲ候フ。」
といった、「漢字+カタカナ」の候文(そうろうぶん)
だったことを、懐かしく思い出します。

(記憶が曖昧なので、文章の正誤は度外視してください。)

 さて、上記の諸法令を眺めてみますと、大字は、
正確さが求められる公的書類(戸籍、供託等)や、
改ざんの防止が要請される会計や有価証券の類
に用いられているように考えられます。

3 今次限りの漢数字

 大字コーナーが愉しくて、つい脱線してしまいましたが、
やはり、漢数字が読みずらいことには変わりありません。
 ですから、今次限りで漢数字を封印し、
従来どおり、漢数字をアラビア数字に書き換えて、
このブログを進めましょう。

 今宵は、これでおしまいです。
 それでは、また。

 

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