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【第5回】んっ、不測の「附則」?

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 法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
「おきてのみやげ」の深夜不定期便を

お届けいたします。
 ナビゲーター(navigator)こと、

テラボ(terrabo)です。

 たとえ、門外漢(amateur)でも、
たやすく読めるはずの法律の条文を、
まさしく読めるようにしようとするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。

 堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
『北風と太陽』の二回戦目のように、
ゆるりとした心構えで取り組むのが得策
なときもあります。

 そこで今宵は、
「んっ、不測の「附則」?」
のトピックで、憩(いこ)いの
ひとときを過ごしましょう。

 学舎横の桜並木を通り抜け、
自室に戻ってから、
日没時の気だるさを、

爽やかなシャワーで流して…
 それでは、はじまり、はじまり…

1 義務と努力義務は同類?

 【第4回】と【Exercise4】で、
「施行期日」(附則第1条)の話に移ると、
途端に、プログラム言語のような「附則」が登場して、
顔をそむけた方もいらっしゃったと思います。

 嫌気(いやけ)が差すことは、サッと忘れて、
さっそく愉しい話題に花を咲かせましょう。

(1)「注意書き」が怪しい

 ということで、
パワーハラスメントの防止に関するパンフレットに、
「注意書き」として、次のような内容を見つけました。


「※ 改正法の施行は2020年6月1日ですが、
 パワーハラスメントの雇用管理上の措置義務については、
 中小事業主は2022年4月1日から義務化となり、
 それまでの間は努力義務となります。」

「この文章のどこが愉しい話題なんだ。」
と、ストレートに思われた方、
神経が正常に働いている証拠です。
 素直に喜びましょう。

 ところで、これを読まれて、
「なるほど~、中小事業主は、努力義務 ⇒ 義務
 の段階を踏むんだ。」
と感心しているところではありません。 

「だって国のパンフレットに書いてある…」
って、法律の素顔を愉しむコーナーですから、
二次情報に過ぎないパンフレットは、脇に置いときましょう。

(2) 努力義務の根拠を追え

  さて、ここからが本題です。
「中小事業主は、パワハラ防止措置について、
 令和4(2022)年3月31日までは努力義務で、
 同年4月1日から義務となる。」
という内容は、いったい、
何処(いずこ)の法律の、どこに規定されているでしょうか。

 この点、パワハラ防止措置の根拠条文については、
【第3回】の「パワハラの旅」で取り上げたように、
「労働施策の総合的な推進並に労働者の雇用の安定及び
 職業生活の充実等に関する法律
」
 (昭和41年法律第132号)
第30条の2でした。


 確かに、同法第30条の2には、
パワハラ防止措置の義務が規定されていますが、
令和4(2022)年3月31日までは努力義務
という内容は書かれていません。

 また、その近辺の条文を探しても、
努力義務に相当するようなものは
見当たりません。

2 パワハラの隅っこ暮らし

(1) 根拠条文が迷子 

 それでは、中小事業主に係る努力義務は、
何処の法律に隠れているのでしょうか。

 パワハラ防止措置の根拠条文である、
労働施策総合推進法第30条の2
の近辺には見当たらないので、
当該規定が設けられた経緯にさかのぼってみましょう。

 【第4回】2(3)には、次のように経緯が記されています。

「令和元年5月29日、
 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
  等の一部を改正する法律
」
  (令和元年法律第24号)
 が成立し、同年6月5日に公布されました。
  同法第3条により、
 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
  及び職業生活の充実等に関する法律の一部改正
」
 が行われ、それにより、
 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
  及び職業生活の充実等に関する法律
」
 に、第30条の2 (雇用管理上の措置等)が新設されました。
  このパワーハラスメント防止に関する規定については、
 改正女性活躍推進法(略称)の附則第1条
 各号列記以外の部分により、
 「公布の日から起算して一年を超えない
  範囲内において政令で定める日
」
  (令和2年6月1日)から施行されました。」

 あれっ、後半の下りに
怪しげなセンテンスが見つかりましたね。
 お気づきになりましたか。そう、末尾の
「改正女性活躍推進法(略称)の附則第1条
 各号列記以外の部分により、」
の箇所です。

 というのは、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
 及び職業生活の充実等に関する法律
」
第30条の2 (パワハラ防止措置)
に係る施行期日は、
改正法律(束ね法)である、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律
」
の「附則第1条各号列記以外の部分」
に規定されている、ということです。

 実は、当該施行期日を定めている附則第1条について、
市販の法令集(六法全書)では、
根拠法律(実体法)となる、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
 及び職業生活の充実等に関する法律
」
の附則の末尾にペタッと張り付いて記載されています。

 しかし、実物は、改正法律(束ね法)である、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律
」
の附則に規定されているんです。
 これって、意外と知られていない特ダネですよ。 

 そして、パワハラ防止措置については、
その根拠法律(実体法)である、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
 及び職業生活の充実等に関する法律
」
 (第30条の2)
だけでなく、
その改正法律(束ね法)の附則にも、
施行期日を含め、何かしらの関連事項が
規定されている可能性がある、と推測できます。

(2) 束ね法の附則を探せ 

 そこで好奇心を抱いて、附則第1条以降を探してみると、
それっぽい条文が見つかりました。

〇 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律
(令和元年法律第24号)
   附 則
 (中小事業主に関する経過措置)
第3条 中小事業主(国、地方公共団体及び
 行政執行法人以外の事業主であって、
 その資本金の額又は出資の総額が三億円
 (小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主
 については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主
 については一億円)以下であるもの及び
 その常時使用する労働者の数が三百人
 (小売業を主たる事業とする事業主については五十人、
 卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主
 については百人)以下であるものをいう。
 次条第二項において同じ。)については、
 公布の日から起算して三年を超えない範囲内
 において政令で定める日までの間、
 新労働施策総合推進法第三十条の二第一項
 (第五条の規定による改正後の労働者派遣事業の
 適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
 第四十七条の四の規定により読み替えて適用する場合
 を含む。次条第二項において同じ。)
 中「講じなければ」とあるのは
「講じるように努めなければ」と、
 新労働施策総合推進法第三十条の四、第三十三条
 第二項及び第三十六条第一項
 (これらの規定を新労働施策総合推進法第三十八条
 第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)
 中「第三十条の二第一項及び第二項」とあるのは
 「第三十条の二第二項」と、新労働施策総合推進法
 第三十五条中「並びに第三十条の二第一項及び第二項」
 とあるのは「及び第三十条の二第二項」とする。

 こうなると、ほとんど暗号にすら見えますね~
 もう、字面を読むというより、パズルを解く感覚でしょうか。
 まっ、これでも上手く改行したつもりですが、
プログラム言語のように括弧が多く、格好悪いので、
それらを省きましょう。
 そうすると、相当スッキリします。

〇 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律
(令和元年法律第24号)
   附 則
 (中小事業主に関する経過措置)
第3条 中小事業主(…略…)については、
 公布の日から起算して三年を超えない範囲内
 において政令で定める日までの間、
 新労働施策総合推進法第三十条の二第一項
 (…略…)中「講じなければ」とあるのは
 「講じるように努めなければ」(…略…)
 とする。

 これなら、読み続ける活力が湧いてきたでしょうか。
 後半の太字の箇所を読むと、
パワハラ防止措置に係る義務が努力義務に
置き換わっていますね。

 これこそ、探し求めていたものの正体です。
 でも、いつの時期まで、努力義務なのかは、
依然として判然としません。

(3) さらに政令を探せ!

 そこで、先ほどの
改正女性活躍推進法(略称)の附則第3条
における前半の太字の箇所を読むと、
努力義務とされる期限は、
「公布の日から起算して三年を超えない範囲内
において政令で定める日までの間」
とされています。

 ここでも、政令に委任しているのか
とつぶやきながら、政令を探すと、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の
 整備及び経過措置に関する政令
」
 (令和元年政令第211号)
第8条により、
「令和4年3月31日」
とされています。

 つまり、中小事業主に係る経過措置について、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
 等の一部を改正する法律」 
附則第3条により、
令和4年3月31日までは、
「努力義務」となり、
それ以降は、本則である、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
 及び職業生活の充実等に関する法律
」
第30条の2第1項により、
「義務」となります。

 めでたし、めでたし。
 これで、今回の旅の終わりに近づいてきました。

3 Enter the Ninja 

 ここまで、石にかじりついて読破された方、
誠におめでとうございます。
 何かを成し遂げたときの達成感と、
だからどうした、という虚無感。
 附則には、そうした2面性があります。


 誰でも、法律の本則に目が向かいがちですが、
附則には、
法律の効力が一般的、現実的に発動する施行期日や
中小企業事業主等に係る経過規定など、
法律が実際に動き出すときに必要な仕掛け
が実装されています。
 まさに、普段考えないような、
不測の事態を想定した規定群です。

 法律の表が本則なら、裏は附則。
本則が武道であれば、附則は忍法でしょうか。
法律の企画・立案を担当する者にとって、
年金関連法や税法に規定されている附則の大群は、
立法技術の天王山に座しています。

 ここまでたどり着いた皆さんは、
目の付け所が違うエキスパート(達人)、
いや、目の位置が違うエスパー(超人)
への道を、歩み始めているのかも知れません。

 今宵は、これでおしまいにしましょう。
 それでは、また。

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