たとえ、門外漢(amateur)でも、
たやすく読めるはずの法律の条文を、
まさしく読めるようにしようとするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。
堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
『北風と太陽』の二回戦目のように、
ゆるりとした心構えで取り組むのが得策
なときもあります。
そこで今宵は、
「んっ、成立・公布・施行の時系列?」
のトピックで、英気を養いましょう。

ざわめく講堂を背にして、
日中の緊張感をシャワーで流してから…
それでは、開幕です。
Table of Contents
1 法律ができるまでの大筋
まず、タイトルに登場する、3つの言葉について、
しれっと解説します。
(1) 成立と公布
法律案は、原則として、
衆議院及び参議院の両院で可決したとき、
法律として成立します。
法律が成立したとき、
後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から
30日以内に公布(官報に掲載)されます。
公布とは、
「成立した法律を一般に周知させる目的で、
国民が知ることのできる状態に置くこと」です。
法律を公布する際、暦年ごとの番号(法律番号)
が付けられます。
(2) 施行
施行とは、
「法律の効力が一般的、現実的に発動し、作用すること」です。
いつから施行されるかについては、通常、
その法律の附則で定められています。
附則まで読まれる人は、相当こだわりのある方だと思います。
(3) 実にシンプルな流れ
法律の制定をめぐる大筋の流れを、シンプル化しますと、
次のように、ホップ(成立)、ステップ(公布)、ジャンプ(施行)
となります。
- STEP
国会で成立
- STEP
天皇が公布 ( → 法律番号が付与)
- STEP
施行
分かったような、分からないような…
そこで手っ取り早く、第1回と第3回に登場しました、
労働施策総合推進法を題材に、制定や改正の流れについて、
成立、公布、施行の文言を盛り込んでみましょう。
2 さっそく冒険に出かけましょう
例のごとく、
緑色は、対象となる法律の題名、
紫色は、改正する法律(改正法)の題名です。
(1) 労働施策総合推進法の船出
昭和41年6月27日、
「雇用対策法」 (昭和41年法律第132号)
が成立し、同年7月21日に公布されました。
同法附則第1条により、原則として、
「公布の日」から施行されました。
たいていの方は、「附則」に馴染みが薄いと思いますので、
同法附則第1条(施行期日)を抜粋してみましょう。
(参照条文)
〇 雇用対策法
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、
第21条の規定は、公布の日から起算して6月を
経過した日から施行する。
確かに、読んでいて心躍(おど)るものではありませんが、
学ぶことは愉しいですね~
すぐにブログを移すのは良くありませんよ~
(2) 働き方改革関連法で名称が変わる
その後、平成30年6月29日、
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」
(平成30年法律第71号)
が成立し、同年7月6日に公布されました。
同法第3条により、
「雇用対策法の一部改正」
が行われ、題名が、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び
職業生活の充実等に関する法律」
(昭和47年法律第113号)
となりました。
働き方改革関連法(略称)の附則第1条第1号により、
「公布の日」から施行されました。
(参照条文)
〇 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、平成31年4月1日から施行する。
ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から
施行する。
一 第3条の規定並びに…(略)…附則第30条の規定 公布の日
(第2号及び第3号 略)
上記の「(略)」では、読者の皆さんのフィーリングを察して、
十行以上を省略しています。
黙って、ブログを閉じようとした方、
大切なのは、「折れない心」ですよ~
(3) パワーハラスメント防止法に変身
続く、令和元年5月29日、
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
等の一部を改正する法律」
(令和元年法律第24号)
が成立し、同年6月5日に公布されました。
同法第3条により、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
及び職業生活の充実等に関する法律の一部改正」
が行われ、それにより、
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定
及び職業生活の充実等に関する法律」
に、第30条の2 (雇用管理上の措置等)が新設されました。
このパワーハラスメント防止に関する規定については、
改正女性活躍推進法(略称)の附則第1条
各号列記以外の部分により、
「公布の日から起算して一年を超えない
範囲内において政令で定める日」
(令和2年6月1日)から施行されました。
(参照条文)
〇 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
等の一部を改正する法律
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない
範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、
次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から
施行する。
一 第3条中労働施策の総合的な推進並びに
労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等
に関する法律第4条の改正規定並びに
次条及び附則第6条の規定 公布の日
二 第2条の規定 公布の日から起算して3年を
超えない範囲内において政令で定める日
(注1) 「 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」
(令和元年政令第174号)
(注2) 上記附則第1条第1号の
「第3条中労働施策の総合的な推進並びに
労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等
に関する法律第4条の改正規定」
とは、国の施策へのハラスメント対策の明記を指します。
3 附則がカギ
上記2(1)~(3)までをサーっと読んでみますと、
成立と公布は、それぞれの日付を明記すれば足り、
成立は、国会の後議院本会議で可決したという事実に、
公布は、官報に掲載されたという事実に
基づくため、法律上に規定されているわけではありません。
一方、
施行は、法律の終盤に規定される附則に、
「(施行期日)」として規定されていました。
ですから、施行を調べようとしますと、
施行 ⇒ (施行期日) ⇒ 附則第1条
のように、(改正)法律の素顔にたどり着きます。
そして、施行期日を含む附則の全体を眺めますと、
それぞれの条項が、まるでプログラミング言語のように、
機械的に羅列しているように感じます。
法律案の企画・立案を担当する者の間では、
「附則を制するものは、法律を制する。」
と、ささやかれるだけのことはあります。
今回は、附則の玄関口に差しかかったところで、
筆を置きましょう。
今宵は、これで閉幕です。
それではまた、
近いうちにお会いしましょう。
