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【第2回】んっ、「略称」は法律のあだ名?

4 min

 法令の素顔をゆるりと愉しむブログ、
おきてのみやげ」の夜間不定期便を

お届けいたします。
 この先、ナビゲーター(navigator)

を務めます、テラボ(terrabo)です。 

 たとえ、門外漢(amateur)でも、
さらりと読めるはずの法律の条文を、
本当に読めるようにしようとするのが、
このブログの密かな使命(mission)です。


 堅物(かたぶつ)でしかめっ面の条文には、
『北風と太陽』の二回戦目のように、
ゆるりとした心構えで取り組むのが得策
なときもあります。

 そこで今宵は、
んっ、「略称」は法律のあだ名?
トピックで、ゆるやかに
くつろぎましょう。

 気ぜわしい校舎から戻り、
たそがれ時の虚脱感を
温かいシャワーで流してから…

 それでは、開講しましょう。

1 法律の「略称」って 

 例えば、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者
 の保護等に関する法律
」(昭和60年法律第88号)
という題名は、早口言葉のように長いので、
通常は、少し省略した通称として、「略称」で呼ばれます。

 この法律の「略称」としては、
「労働者派遣法」がオーソドックスです。
 他にも、「人材派遣法」などの呼び方があるでしょうし、
当事者間で、特定の法律をきちっと見分けられるのであれば、
その他の呼び方でも差し支えありません。

 そもそも、「略称」は、法令用語ではなく、
友だちの呼び方と同様に、校則のような決まりもありません。
 「けいた」君  ⇒ 「けい」ちゃん ⇒ けん坊
 「ゆみこ」さん ⇒ 「ゆみ」ちゃん ⇒ ゆみっち

 法律の題名を「氏名」と考えれば、
略称は「あだ名」で、法律番号は「生年月日」でしょうか。


「あだ名」と思えば、一本化する必要はありませんが、
広く世間に読んでもらう記事にするのであれば、
歯切れのよい短い言葉で、中身を簡明に表した「略称」
が望まれます。

2 手っ取り早く、実演してみよう 

 それでは、労働者派遣法の改正経緯(いきさつ)を題材に、
〇 法令用語を使って正確に表現する場合と
〇 略称を使って平易に表現する場合 
とに分けて、それぞれの説明文を実演してみましょう。

 以下、対象となるおおもとの法律の題名を緑色に、
改正する法律(改正法)の題名を紫色
区別しています。

(1) 法令用語を使って正確に表現する場合

 それでは、間髪を入れずに進みましょう。

「 昭和60(1985)年6月7日、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律

 (昭和60年法律第88号
が成立しました。
 その主な項目は、…


 平成8(1996)年6月11日、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
 等の一部を改正する法律

 (平成8年法律第90号
が成立しました。
 その主な改正内容は、…


 平成11(1999)年6月30日、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
 等の一部を改正する法律

 (平成11年法律第84号
が成立しました。
 その主な改正内容は、…


 平成15(2003)年6月6日、
職業安定法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保
 及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
 の一部を改正する法律
」(平成15年法律第82号
が成立しました。
 その主な改正内容は、…

 平成24(2012)年3月28日、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
 等の一部を改正する法律

 (平成24年法律第27号) 
が成立し、同法第1条により、その題名が、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の保護等に関する法律

に改められました。
 その主な改正内容は、…

 平成27(2015)年9月9日、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
 派遣労働者の保護等に関する法律
 等の一部を改正する法律

 (平成27年法律第73号
が成立しました。
 その主な改正内容は、…

  平成30年6月29日、
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律
 (平成30年法律第71号
が成立し、同法第5条により、
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び 
 派遣労働者の保護等に関する法律の一部改正

 が行われました。
 その主な改正内容は、… 

 う~ん、それぞれの改正の中身を省いているせいか、味気ない… 
 法令マニアでもない限り、最後まで読み終わる前に、
ブログを移ってしまいそうです。
 ある種、気の毒な書きぶりに見えます。

(2) 略称を使って平易に表現する場合 

「 昭和60年に成立した、労働者派遣法は、
 その後、平成8年、平成11年、平成15年、
 平成24年及び平成27年の法律改正を経て、
 働き方改革関連法の一環として、
 平成30年改正が行われ、現在に至っています。
  具体的に、平成11年改正では、…」

 まさに見てのとおり、スラスラ読めて、あっさりしています。
 しかも、ちょっぴり、地頭(じあたま)が良さげな印象です。

(3) それぞれの表現振りの特色 

 上記(1)の法令用語を使って正確に表現する場合は、
淡々と事実を語っている、ドキュメンタリー映画のようです。
 そう言えば、昭和の時代劇に登場する、
風来坊の「仁義」の切り方(口上)に似ています。

 立て板を流れる水の如(ごと)く、次のような口ぶりでした。
「 このような場で失礼でござんすが、お控えなすって。
 手前、生国(しょうこく)と発しまするは、
 下総(しもうさ)にござんす。
  下総と申しても、いささか広うござんす。

  (この後、氏素性を紹介)
  面体(めんてい)お見知りおきの上、
 向後万端(きょうこうばんたん)、よろしくお頼もうしやす。」 

 氏素性を延々と口上するあたりが、
改正のいきさつを淡々と述べるところと、似通っています。


 それに比べると、(2)の略称を使って平易に表現する場合は、
馴染みのあるビジネスライクな感じです。
 自らの略歴と、その時々のエピソードを織り交ぜた、
職務経歴書のようにもみえます。

3 「略称」の持ち味は… 

 上記2(2)の略称を使って平易に表現する場合は、
説明の仕方が、なんともスマート(smart)で、
その清々(すがすが)しさが、際立っています。

 具体的にみると、

  •  話しやすい文字数に圧縮しているので、口にしやすい。
  •  「〇〇年改正」のように、成立と改正の「年」が、
    スッとすっと頭に入りやすい。
  •  平成24年改正で、題名の一部が改められているけれども、
    そうした点を気にせず、話を展開することができます。

 その一方、
上記2(1)の法令用語を使って正確に表現する場合は、
正確な情報が丁寧に盛り込まれているので、
信頼して読むことができます。

 具体的には、

  •  一口に改正といっても、
    「一部改正の形式」か「束ね法」かが明快なので、
    「改め文」や「新旧対照表」などの後追いがしやすい。
  •  平成24年改正で、題名の一部が、
    「派遣労働者の保護」に改められているのが、一目瞭然。
  •  法令用語に基づいて正確に記述しているため、
    インターネット等を利用して、情報源をたやすく検索できる。
  •  「成立の年月日」や「法律番号」から、
     国会の会期や審議経過が追跡しやすい。

 このように、双方の魅力を見比べると、
それぞれの持ち味がクリアーになります。
 略称を使って平易に表現する場合は、
改正の意義やコンテンツなどを、分かりやすく取りまとめたり、
ユニークな視点から解説する際に、優れて効果的です。

 また、法令用語を使って正確に表現する場合は、
改正のいきさつを、抜かりなく記述しているので、
情報源の検索やその後の後追い調査がらくちんです。

 そうすると、ひとくくりに「略称」がコールド勝ちするわけでなく、
それぞれの持ち味を生かした扱い分けこそが、
「違いの分かる大人」の計らいでしょうか。

 今宵は、これで閉講です。
 それでは、またお会いしましょう。

 

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